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ピンクの花束を抱えて女たちを訪ね歩く中年男。その姿が哀しくも可笑しい無表情映画。。
                   ジム・ジャームッシュ監督『ブロークン・フラワーズ』(05)

 自作映画の脚本は必ず自ら手掛けるジム・ジャームッシュ。彼はいつも、まず特定の俳優を出発点にして、その俳優の佇まいや人間性に基づき、登場人物から映画の内容までを構想するという。そんなジャームッシュがここで主演に選んだのは、怪優ビル・マーレイ。『トッツィー』(シドニー・ポラック、82)で内気な青年を演じた若きマーレイの無愛想で無表情な独特の佇まいは、“主演女優”ダスティン・ホフマンの凝りに凝った熱演と相補的に互いを引き立てあっていたこともあり、忘れがたいものだった。
 ところで、マーレイはすでにジャームッシュ作品に出演している。『コーヒー&シガレッツ』(04)のウェイター役だ。そこでの彼は何喰わぬ顔でポットから直接コーヒーを飲み続けていたけれど、突拍子もないことをそのトボケ顔でやってのけ、そこはかとない可笑し味を醸し出す点で、彼は現代最高の無表情役者の一人だと言いたい。一方ジャームッシュ映画の場合、その存在自体に「無表情」という形容をあてはめることができそうだ。無表情映画に無表情役者が主演(!)。そのマーレイが今回演じるのがドン=ファン的な元遊び人の中年男だという取り合わせの妙。冒頭この中年男は、差出人不明の一通の手紙を受け取る。そこには「20年前にあなたの子供を産んだ」の文字。男は探偵小説マニアの隣人に背中を押されるまま、差出人を探してかつての恋人たちを訪ねる旅に出る。結局その手紙の主は誰なのか、そして本当に男に子供はいるのか。マーレイの無表情(そこにはどんな感情が犇めいているのか)をアップでとらえた最後のカットは、稀に見る深い余韻を観る者に残すはずだ。



初出:『美術画報』2006年
 

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