『肉屋』をめぐって

 映画『肉屋』は、仏南西部アキテーヌ地域内のドルドーニュ県にある村トレモラを舞台としており、実際にその地でロケーション撮影されている。トレモラはドルドーニュ川流域に位置するペリゴール・ノワール[現在のドルドーニュ県とほぼ一致する旧州ペリゴールの一地方の名称]の一部をなしており、先史時代の名残りを留めた場所が多数あることで知られている(フランス人は現在の名称である「ドルドーニュ」よりも「ペリゴール」の方を好んで用いるという)。映画のタイトル部分には先史時代のものらしい壁画が登場するが、実際ドルドーニュ県の周辺には有名なラスコーの壁画の他、重要遺跡や古城が数多くあり、観光地化した地域も多い。作家ヘンリー・ミラーがギリシア旅行記『マルーシの巨像』(1941年)の中で緑豊かなこの地域の美しさを賞賛していること、トリュフとフォワグラを始めとする美食でも有名な地であることを付け加えておこう。ただし、冒頭の壁画を始めとする洞窟の場面は、もう一つのロケ地としてクレジットされている、ドルドーニュの隣県ロートにあるクニャック洞窟で撮影されていると思われる。撮影期間は、1969年9月から10月にかけての六週間。

 もっとも、当初シャブロルが撮影地として考えていたのは、トレモラ近郊にある地域レゼジーだった。最初の人類であるクロマニヨン人の骨が発見された、考古学研究の中心地である。シャブロルはこのレゼジーを訪れ、(おそらくはその豊富な遺跡群に)感嘆したことがあったという。そこで彼はこの地で撮影することを思いついたのだが、再び訪れたレゼジーはちょっとした観光都市になってしまっており、『肉屋』の舞台としてふさわしいものではなくなっていた。その後シャブロルとクルーは周辺地域をあちこち周り、トレモラを見つけたのだった。

 シャブロルは、『肉屋』を発想した経緯について、こう語っている。
「『肉屋』の構成は二つのアイディアに基づいていました。その地域、地層にある奥まった場所──たくさんの洞窟です、なぜならそこにあったから──、それに太陽、朝の陽光です。この二つから始めれば、後はとても簡単でした──二つのアイディアを登場人物たちに混ぜ合わせれば、ひとりでに構成が出来上がりました」。

 つまり、彼は最初から映画に洞窟を登場させようと考えていた。「私は、近くに洞窟がいくつかある村を望んでいました。村人たちを出演させたかったので、彼らには有史前の遺跡群から遠からぬところで生活していてもらいたかったのです」(シャブロル)。実際、劇中に登場する小さな役はほとんどすべてトレモラの住人たちが演じている。例えば冒頭の結婚式の場面で、ポポール役のジャン・ヤンヌ、エレーヌ役のステファーヌ・オードラン、歌い手アンジェロ役のアントニオ・パッサリア以外に出演している多数の人々は、みなトレモラの住民だという。
 
 

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