『二重の鍵』における回想場面をめぐって

 クロード・シャブロルの作品にあって最も重要なのは、叙述の構造、もっと言えば映画そのものが自ら織りなす一定の形状である。スリラー・ジャンルの語り直しやブルジョアへの悪意といったシャブロル映画の内容的「特徴」は、副次的なものにすぎない。そのことを、以後『二重の鍵』を例にとって証明したい。

 そこで着目したいのが、『二重の鍵』に登場するフラッシュバック(回想場面)である。実際この映画には、ほとんど言及されることがないものの、かなり興味深いフラッシュバックの使用が認められる。まずはこの点に関し、それぞれ別の機会に口にされた、シャブロル自身の発言を二つ読んでみよう。

 一つ目は、『二重の鍵』の撮影に入る前におこなわれたある取材からのもの。
 「物語全体が、一日のうちに起こった出来事を描いています。日曜日の夜明けに始まり、黄昏時に終わるのです。そして殺人が、正午に犯される。舞台はエクサン=プロヴァンスで、互いに100メートル離れた場所に二軒の家が建っています。一方はプロヴァンス地方の荘園領主の邸宅で、そこにはブルジョア一家が住んでいます。もう一方は日本風の家で、数人の外国人たち、とりわけアントネッラ・ルアルディ扮するイタリア人娘が住んでいます。
 脚本は複雑です。なぜなら、私は二つのフラッシュバックを重ね合わせたからです。最初のフラッシュバックは、11時から正午の間に生じます。この回想場面は、10時から11時の間に起こった出来事を呼び覚まします。そして17時前後に位置づけられる二番目のフラッシュバックは、最初のフラッシュバックで語られた時間内に起こった出来事を呼び覚まします。そのうえ、最初のフラッシュバックには、ジャック・ダクミーヌとルアルディとの一年間にわたる関係も組み入れられています。11時から正午までの間の時間内に、すっかり要約されてしまった関係というわけです」[注1]。

 二つ目は、晩年におこなわれた別の取材からのもの。
 「『二重の鍵』は、構成がまずいと言われました。映画を美しいものにしているのは、その構造なのだと私は思っていたのですが。物語全体が一日の出来事を扱っています。8時から11時の間は、二つのプロットが並行して語られます。10時から11時の間は、われわれは一つのプロットだけを追います。その後フラッシュバックが、8時から11時の時間帯に別のところで起こったことを観客に伝えます。われわれは午後2時から6時の間、単線的なプロットに戻ります。次いで二つ目のフラッシュバックが、11時から正午の間に起こった出来事を語ります。原作では、鍵──推理上の謎における重要な要素──をめぐる事件によって題名が正当化されました。私の映画においては、鍵を二度回すのは物語自体でした。おまけに、私は円運動をたくさん撮りました。映画『二重の鍵』が、二重に見えるひとつの円を表現しなくてはならなかったのです」[注2]。

 

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