上記の発言だけでは作家が何を言わんとしているのか把握し難い部分もあるので、回想場面(フラッシュバック)使用に関してここで映画に沿って今少し詳しく見ておこう。

 まず、前掲の『二重の鍵』の撮影に臨んでいた当時のシャブロルの発言(一つ目)と、先に紹介した映画完成後の彼の発言(二つ目)とでは、少々食い違っている部分がある。全体の形式に関する説明に関しては、双方の発言は概ね一致しているが、回想が始まる時間帯や回想場面自体が描いている時間帯が、両者の間で少しずれているのだ。もっとも『二重の鍵』では、劇中で時計が示されるなどして観客が時間帯を明瞭に把握できるような作りが目指されているわけではないので、このこと自体は大きな問題ではない。強いていえば、後者の発言の方が完成版に近い形なのかとは思われるが、後者に欠けている論点を前者が補っている箇所がある。それは、「二つのフラッシュバックを重ね合わせた」というシャブロルの言葉である。

 それではここで、劇中に二度登場するやや長めの回想場面について仔細に検討してみたい。この二つの回想は、シャブロルの発言からもうかがわれるように、少々特異な形で使われている。

 最初に登場する回想は、アンリが妻テレーズの部屋で彼女に離婚を告げる場面に登場する。テレーズと口論になったアンリが相手を激しく罵った末、窓辺に立ってレダの家を見つめている画に続くのが、回想場面である。回想は、アンリの視点からのものだ。この回想場面では、その日の以下の事柄が語られる。その日の朝、アンリはレダと野原で逢いびきをした後(シャブロルの発言に見られるように、この野原での逢いびきの場面自体に時制の操作があるのかもしれないが)、二人で街に出て、カフェで酔っ払っているラズロとヴラドに偶然出会う。アンリはラズロにテレーズと離婚する意志を告げ、喜んだラズロの提案でレダの家で四人で祝杯をあげることにする。

 続く場面で時間は「現在」に戻り、ベッドにうつ伏せになって泣いているテレーズと、窓辺に立ち続けているアンリの姿が画面に示される。

 この回想場面で、先に「現在進行形」で描かれていた、エリザベートを怒らせてマルクー家を飛び出したラズロが、街なかのカフェで友人ヴラドと偶然出会い、彼と一緒に酒を飲んで酔っ払う場面(ラズロの視点に寄り添ったもの)が、今度はアンリとレダの側から描き直されることになる。そして同じ回想場面内で続いて描かれる、レダの家で彼女と祝杯を挙げるアンリ、ラズロ、ヴラドの場面の直後に、「現在進行形」の夫婦の諍いの場面が続くことになる。

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