その後ロンドンに戻り、衣装合わせをしていたヨークは、主治医から妊娠している旨の知らせを受け、再度アルトマ
ンに断りの電話を入れた。しかしアルトマンはキャスリンが妊娠中だという設定にあっさり変更してしまった。妊娠中
のヨークの不安定さを映画に利用しようというのだった。

 アイルランドでの撮影中、脚本は毎晩のように書き直された。撮影が終わるとアルトマン、ヨーク、ルネ・オーベル
ジョノワ、マルセル・ボズッフィ、ヒュー・ミレー、そして時にキャスリン・ハリスンが集まり、3~4時間議論してア
ルトマンが書いた「骨組みだけの」脚本に肉付けしていった。もちろん、アルトマンはこれを歓迎した。彼は『イメー
ジズ』の撮影に関し、みんなが監督であり、脚本家であり、製作者だったと述懐している。撮影監督はアルトマンの前
作『ギャンブラー』に引き続いてヴィルモス・ジグモンドだったが、アルトマンは『ギャンブラー』とは完全に異なる
画面を欲していた。つまり、もやのかかったような古臭い感じのする画面を避けたがっていた。撮影は11月で、その時
期アイルランドは悪天候の多い季節だった(『ギャンブラー』撮影時のカナダのヴァンクーヴァーと同じように)。そ
のためジグモンドは自身が撮影を担当した他のアルトマン作品とは違ってフラッシング等の特殊技術を使わず(フォッ
グフィルターも一場面でのみ使用)、普通に撮影をして英国のテクニカラー現像所で処理してもらうことで、カラー撮
影なのにモノクロのような独特の感触を画面に与えることができたのだという。


●「分裂」の主題

 アルトマン自身は本作を、「幽霊物語ではなく、ある女性の頭の中で起こったこと」として作ったのだと語っている。あるいは、こうも言っている「これは何よりもまず真の狂気に関する映画だ。実際、誰が狂人で誰がそうでないかを知ることが問題になっている」。物語は一言で要約できる。狂気に陥った一人の女が次々に自らの周囲に幻影を見て脅かされた挙げ句、それらを一つ一つ抹殺していく、というものだ。興味深いことに、『イメージズ』はジョゼフ・ロージーの作品を念頭に置いて作られたという。アルトマンはもう一つの「分身」映画『仮面/ペルソナ』(イングマル・ベルイマン、67)との親近性も認めているが、ロマン・ポランスキの『反撥』(64)によく似た、女性の幻視と性的欲求の結合の主題も見出せる。キャスリンが自らの姿を認める場面やスザンナがキャスリンとの同一化を願う場面に、『召使』(63)や後の『パリの灯は遠く』(76)といったロージー作品で度々採用される「分身(ドッペルゲンガー)」の主題を読み取ることができよう。あるいは、ロージーが「分身」を表現する際に活用する舞台装置としての鏡も、随所に登場する。「分身」の主題はエドガー・アラン・ポオの『ウィリアム・ウィルソン』やドストエフスキーの『二重人格』を始めとして文学の世界でもお馴染みのものであるが、『イメージズ』では同時にキャスリンが他者に「変身」してしまうというカフカ的趣向も認められる(アルトマンは、ある人間が誰か他の人間になってしまうという考えに常に恐怖を感じていたという)。

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