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ジャン=ピエール・レオーはジャン=ピエール・レオーである?


 たとえばジャン・ドーソンは、俳優ジャン=ピエール・レオーを評してこう書いている。「フランソワ・トリュフォーの映画では、レオーはうまくトリュフォーの声音を真似しさえする。ジャン=リュック・ゴダールの映画では、レオーの声はゴダール自身のそれに似て、もっと荒々しくなる」。(注1)

 また、フランソワ・トリュフォーはあるインタヴューのなかでこう語っている。「たしかに彼はその出演する映画の監督とそっくりになってしまうところがある。『男性・女性』に出たときはゴダールそっくりだったし、イエジー・スコリモスキの『出発』に出たときにはスコリモフスキにそっくりだった。同じように、わたしの映画に出たときはわたしにそっくりになるのでしょう(笑)」。(注2)

 レオー自身もドーソンのインタヴューに答えてこう語っている。「スコリモフスキと一緒に仕事したときには、ことは簡単だった。だってスコリモフスキはぼくのために全部の場面を演じてくれるんだから。ぼくはただ彼の背後に立ってそのジェスチャーを模倣し、それからカメラに向けてほんのちょっとレオー流パウダーをまぶすだけでいい」。(注3)

 では俳優としてのジャン=ピエール・レオーのアイデンティティはどこにあるのだろうか。

 ジャン=ピエール・レオーとは誰か?

 それはひとまずは、フランソワ・トリュフォーの「アントワーヌ・ドワネルもの」の主人公を20数年の長きにわたって演じ続けた人物。そしてトリュフォーのほか、ゴダール、ジャン・ユスターシュ、ピエロ・パオロ・パゾリーニ、イエジー・スコリモフスキ、フィリップ・ガレル、ジャック・リヴェット、グラウベル・ローシャ、ベルナルド・ベルトルッチら錚々たる監督たちと仕事した役者。それからもうひとつ、姿かたちだけでなく、その独特の仕種や表情の動きが毎回どうしようもなく画面に刻印されてしまう男。

 トリュフォーが1967年に発表した、『黒衣の花嫁』というスリラー映画がある。冒頭、主人公ジャンヌ・モローが夫を殺した恨みの相手を探してあるホテルを訪れる。玄関先の床をモップで拭いている男が一人。モローに話しかけられたこの男、しばし女の美しさに見とれた後、彼女の周りをせわしなく一周しながらジロジロねめつける。玄関へと向かうモローを走って追い越し、独り言をつぶやくようにブツブツしゃべりつつ前進しながら彼女の方を振り向いて片手で額に垂れかかった前髪をかきあげ、コセコセとカウンターに入って電話を掴み、ダイヤルを廻して相手がいないことを確かめると、目を一瞬キュッと見開く……この表情、この仕種、どっかで見たことあるなあ!

 ジャン=ピエール・レオーである。

 
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