『ボウイ&キーチ』をめぐって


●製作背景


 1974年のアメリカ映画。原作は1937年にエドワード・アンダースン(1905年~1969年)が発表した犯罪小説『Thieves Like Us(俺たちみたいな泥棒)』。元来この企画は、ロバート・アルトマンの前作『ロング・グッドバイ』(73)の製作者エリオット・カストナーとジェリー・ビックからアルトマンの方に流れて来た企画だった。カストナーとビックは、当時30~40年代に書かれた小説類の映画化権を買い上げ、それらを再利用することを繰り返していた。『ロング・グッドバイ』はそのうちの一本で、同じくレイモンド・チャンドラー原作『さらば愛しき女よ』(ディック・リチャーズ、75)と『大いなる眠り』(マイケル・ウィナー、78、ビデオ発売のみ)もこの二人による製作。アルトマンの友人であるジョージ・リットーが仲介人となり、本作の製作総指揮も務めている(ビックは製作を担当)。

 脚本を担当したジョーン・テュークスベリーによれば、アルトマンは『ギャンブラー』(71)撮影時より『Thieves Like Us』の映画化を熱望していたとのこと。『ギャンブラー』に脚本監修として参加したテュークスベリーは、自身の結婚生活の破局に基づいたオリジナル脚本をアルトマンに読ませたところ絶賛され(アルトマン製作、テュークスベリー監督で映画化予定だったが頓挫)、彼が次回作に予定していた小説の翻案を頼まれたのだという。その小説が『Thieves Like Us』だったのだ。アルトマン自身は、この小説を初めて読んだのは『ギャンブラー』の撮影を終えてロンドンに滞在していた頃だと語っている。原作読了後、アルトマンはまずキース・キャラディン、シェリー・ドゥヴァル、ジョン・シャック、バート・ランセンといった主要キャスト(全員『ギャンブラー』に傍役出演した)を決めた上で、彼らに原作本を渡して読ませたようだ。上記俳優たちの他に、『M★A★S★H』(70)に出演したトム・スケリットも起用された。冷徹で狡猾なチカモウの義妹マティ役を演じるのは、本作が本格的な映画出演第一作となったルイーズ・フレッチャー(翌年やはり精神病院の冷徹な看護婦長役で出演した『カッコーの巣の上で』でオスカーを受賞、一躍有名になり、92年にはアルトマンの『ザ・プレイヤー』にも本人としてカメオ出演)。テュークスベリーも最後の鉄道駅の場面に、キーチに話し掛けられる婦人の役で出演している。

 『Thieves Like Us』の映画化作品としては『夜の人々』(ニコラス・レイ、49)が先行していたが、アルトマンもテュークスベリーも『夜の人々』に関してはよく知らなかったようだ。『突撃』(57)や『卒業』(67)の脚本家カルダー・ウィリンガムの書いた(アルトマンによれば「ひどい」)脚本草稿は既に存在していたが、テュークスベリーはこれを読まなかった。つまり、クレジットに名はあるものの、ウィリンガムは実質的に『ボウイ&キーチ』に関与していない。チャンドラーの原作を大胆に改変した『ロング・グッドバイ』とは違い、本作はできる限り原作の精神と時代設定に忠実に脚本(台詞)が書かれ、演出することが意図された作品なのだという。ということは、『ボウイ&キーチ』は他のアルトマン作品と比べると、あらかじめ準備された上で撮影に臨んだ部分の大きい作品だということになる。ドゥヴァルによれば、彼女がテュークスベリーの脚本に書かれた台詞を変更したところはほとんどないという。とはいえ演技を始めとする即興は、やはり奨励された。脚本は最初、そのまま映画化すれば四時間の長さになるほどの量だったが、様々なエピソードを削除し、撮影後もいくつかの場面(ボウイが保安官になりすまして収監中のチカモウを助けるため、チカモウの友人の弁護士から保安官バッジをもらう場面等)をカットして現在の形に落ち着いた。

 

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