かなり凝った、複雑な作りの喜劇で、主人公サンドロの思い出、夢、妄想が現在進行形の描写にどんどん介入してく
る。そうした描写のなか浮かび上がってくるのが、彼の人生を織りなす家族や友人知人たちだ。まず妻のティッタ(ジ
ーナ・ロロブリジーダ)。親友のペッピーノ(マルチェッロ・マストロヤンニ)。新聞社の上司トレポッシ(ヴィット
リオ・デ・シーカ)。そして、元恋人の女優シルヴィア(シルヴァーナ・マンガーノ)。

 サンドロをはじめとする利己主義者たちと好対照をなすのが、天使のごとく親切な男ペッピーノだ。ペッピーノは異常
なまでに気の良い人物である。この男(作家らしい)は日々それと自覚することなく善行を積んでいるのだが、たとえ
ばジャケット未着用者入場不可の場で、自分はもう用が済んだからと見知らぬ男に自分の上着を貸し与えてしまうほど
気前が良い。サンドロもそんな彼のことが大好きである。

 前述の通り、サンドロの純粋で寛大な友人ペッピーノ役はマストロヤンニが演じているのだが、その件に関して楽屋オ
チ的なくだりがある。ペッピーノが映画館にいる場面で、スクリーンに映し出されているのは、マストロヤンニの主演
作『8 1/2』(フェデリコ・フェリーニ、63)の最後の場面──道化師をはじめとするサーカス芸人たちが、楽器を演奏
しながらだだっ広い空き地をぐるぐる回っている──なのだ。

 他方、サンドロの上司トレポッシは、吝嗇家の偽善者だ。彼は敬虔なキリスト教徒のふりをしているが、実際にはキリ
スト像の足元にキスすることすら不潔がって敬遠している。演じているのは、前述の通りデ・シーカ。ここでも楽屋オ
チ的なパロディが登場する。トレポッシが『ロベレ将軍』(ロベルト・ロッセリーニ、59)の最後の処刑場面を──上
司の人間性を象徴化したサンドロの幻想のなかで──再現するくだりがあるのだ。デ・シーカはこのくだりで、自らが
『ロベレ将軍』で演じた偽ロベレ将軍ことバルドーネを茶化している。ドイツ兵が横一列に並んだイタリアのパルチザ
ンを四人おきに選び出し、銃殺刑に処するあの場面を、デ・シーカ自ら愚弄するのだ。たまたま選ばれずにすんだトレ
ポッシは心から安堵し、天を仰いで自らを護ってくれた神に感謝する(銃殺されることで英雄的に振る舞ったバルドー
ネとは逆に)。このとき隣に立っているパルチザンは、サンドロだ。彼はトレポッシの振る舞いを見て「ムカムカする
!」と吐き捨てるように心のなかでつぶやく。

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