『悪徳』をめぐって

●舞台版『悪徳』

 映画『悪徳』の原作は、クリフォード・オデッツが1949年に発表した同名戯曲(本稿において参照したのは、“Clifford Odets, The Big Knife, Dramatists Play Service Inc., 1975”)である。同戯曲のブロードウェイ初演は49年2月24日から5月28日にかけて、ナショナル・シアターにて行なわれた。このとき演出を手がけたのは、リー・ストラスバーグ。出演者は、ジョン・ガーフィールド(チャールズ役)、J・エドワード・ブロンバーグ(ホフ役)、ナンシー・ケリー(マリオン役)、ジョーン・マクラッケン(ディクシー役)、ポール・マッグラス(スマイリー役)、メアリー・パットン(コニー)、セオドア・ニュートン(ハンク)。

 以下に舞台劇『悪徳』の内容を要約しよう。

 第一幕。
 舞台は合衆国カリフォルニア州ベヴァリー・ヒルズにある、人気映画俳優チャールズ・キャッスル邸の“遊戯室”。黒人の執事ラッセルがホーム・バーにあるグラスの後片付けをして出て行くのと入れ替わりに、チャールズの友人で広報担当のバディ・ブリスが入って来る。その後、怒っていらいらした様子のチャールズがやって来る。バディはハリウッドで女性映画コラムニストのパティ・ベネディクトを連れてキャッスル邸にやって来ていたのだった。チャールズはパティを嫌って自宅から追い出したがっているが、バディは1800万人の読者がいる彼女のコラムの影響力を考えてしばらく我慢するよう友人を諭す。
 やがてパティが姿を現わすと、チャールズは彼女を陽気に歓迎するふりをする。パティはチャールズに、映画製作者マーカス・ホフとの契約更改について尋ねる。彼女との会話から、チャールズはドイツ系で、両親の死後フィラデルフィアにいる貧しいおじ夫婦の手で育てられたことがわかる。
 パティはまた、チャールズが妻マリオンと別れるとの噂の真相を確かめたがっている。チャールズが噂を否定すると、パティはあなたの離婚話を他の記者に出し抜かれたら許さない、と釘を刺す。次いでパティはバディに矛先を向け、彼がかつてスタジオ主催のクリスマス・パーティの会場からチャールズの車を拝借したうえ、子どもをひき殺して逃走し、禁固10ヶ月となった過去を蒸し返す。パティはそのような醜聞を起こしてチャールズのキャリアをだいなしにしそうになったバディのために、古くからの友人とはいえ被害者のチャールズ本人が保釈金を支払ったうえ、自らの広報係として復職させてやったことに不審の念を抱いていた。
 チャールズが体よくパティを追い払おうとしているところに、マリオンが姿を現わす。マリオンが家の中にいることを知らなかったチャールズは驚く。夫との別れ話についてパティにずばりと質問されたマリオンは腹を立て、あなたには関係ないことだと言い返す。自分が歓迎されていないことを悟ったパティは、退散する。その後チャールズは、パティを刺激しないようマリオンに頼むが、彼女はコラムニストのご機嫌取りを拒絶する。やがて、マリオンは精神安定剤の類を取りに家に来ていたことがわかり、チャールズはそうした薬物の濫用は危険だと彼女に忠告する。
 そこにラッセルが顔を出し、彼もまたマリオンが家に来ていたことに驚く。夫婦はもう三週間顔を合わせていなかった。彼らには五歳になる一人息子のビリーがいたが、マリオンは息子と保母と共にここしばらく海辺の別荘で暮らしていたのだった。よりを戻したいとのチャールズの懇願を、マリオンはかつて夫が何度も浮気したことを理由に拒絶する。そして彼女は、夫の友人でもあるハンク・ティーグルに前夜結婚を申し込まれたと告白し、それを聞いたチャールズは衝撃を受ける。作家であるハンクは、執筆のためこれから二週間ニューヨークに滞在中する予定だった。
 マリオンはチャールズに、ホフとの契約更改の件を問いただす。そして、もしホフとまた契約を結んだら、もうあなたのもとには戻らないと夫に告げる。今度の契約は14年もの長期に及ぶものだった。彼女は演技に対する情熱を夫に取り戻してもらいたい、欺瞞に満ちたハリウッドの生活とそこで量産される無価値な映画の仕事から抜け出し、初心に帰ってニューヨークで舞台の仕事をしてもらいたいと切望していた。しかしチャールズは、自分は今ホフの捕虜であり、契約に署名することで身請け金を支払われる立場なのだと答える。マリオンは前回ホフとの長期契約を夫に結ばせたことを深く後悔しており、今度また契約を結んだら彼が深みにはまるだけだと悟っていた。彼女の気持ちを察したチャールズは、もうホフとの契約は断ると彼女に約束する。
 マリオンがかかりつけの医師のもとへと出かけて行った後、入れ替わるようにしてエージェントのナット・ダンジガーがキャッスル邸を訪れる。寛容で思いやりのある初老の男ナットは、ホフとの有利な契約を結ぶようチャールズを説得しようとするが、チャールズは頑として聞き入れない。しかしナットは、スタジオ側はチャールズのすでに主演映画用に100万ドルに上る小説の著作権を買ってしまっており、来週ホフはニューヨークへ行ってチャールズとの契約を公表する腹積もりであること、ホフと腹心のスマイリー・コイが間もなくチャールズの家に立ち寄るであろうことを告げる。彼は二時間前にホフと会ったばかりだった。
 ナットはチャールズに対し、誰もが映画の役柄と混同して君のことをタフな男だと錯覚しているが、実は君は理想主義的な人間だ、と言う。そして、商売と理想主義を混同するな、この二つは水と油だと忠告する。しかしチャールズは、契約する意思はないと突っぱねる。やがて二人の会話から、チャールズがホフに何か弱みを握られており、どうやらそれはかつてバディが引き起こした醜聞と関係があるらしいことがわかる。
 ホフとコイが、キャッスル邸を訪れる。ホフは、ナットがチャールズと一緒にいるのを見て少し驚く。彼はチャールズを競馬に誘うが、チャールズがやんわりと断ると、契約の話を切り出す。チャールズは、マリオンのたっての望みもあり、もう契約を更改せずにハリウッドを金輪際去りたいと答える。ホフは最初、わざとらしく感情を込めてチャールズを説得しようとするが、それは徐々に暗黙の脅迫めいた物言いに変わる。チャールズは根負けして契約書にサインし、ホフとコイは立ち去る。その直後、チャールズにマリオンから電話が入る。チャールズが契約に署名してしまったことをマリオンに告げると、彼女は電話を切る。チャールズは酒を飲み始める。
 ナットがチャールズを慰めた後辞去すると、入れ替わるようにしてバディの妻コニー・ブリスがやって来る。コニーはバディの居所を探していることを訪問の口実にしているが、やがてかつてひき逃げ事件で夫が収監された一件に触れる。そして彼女はチャールズに、バディはあなたの身代わりになって刑務所に行ったことを、私は察しているのだと言う。彼女は事件当夜、コイからバディに二度電話があったことを不審に思っていた。コニーは夫のことを退屈で自分には合わないと考えていると漏らし、暗にチャールズを寝室へ誘う。チャールズが彼女の誘いを拒絶し、スコッチのボトルを手に階上へ行くと、コニーが彼の後について階段を上がって行く。

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